日本公衆衛生雑誌
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原著
都市部地域における HbA1c 値と動脈硬化危険因子との関連に関する検討
古屋 博行長岡 正水嶋 春朔伊藤 俊柴田 則子岡本 直幸岡崎 勲
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2002 年 49 巻 8 号 p. 729-738

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抄録

目的 冠動脈疾患や 2 型糖尿病の発症予防には,その背景因子である「死の四重奏」(上半身肥満,高血圧,高トリグリセライド血症,耐糖能低下)やインスリン抵抗性の関与が推測されているマルチプルリスクファクター症候群の予防を目的とした危険因子の改善が重要である。都市部の地域において HbA1c 値と動脈硬化危険因子との関連性について報告がみられないことから神奈川県 2 市で検討を行い,さらに地域における集団の違いがこれらの関連に与える影響を分析した。
方法 平成10年度に基本健康診査で全受診者に HbA1c 値を測定していた神奈川県中央部の隣接する 2 市の40歳から79歳までの男女を対象とした。HbA1c 値の関連因子として年齢,Body Mass Index(BMI),収縮期血圧値(SBP 値),拡張期血圧値(DBP 値),血清総コレステロール値(TC 値),HDL コレステロール値(HDL-C 値),血清トリグリセライド値(TG 値),GOT 値,GPT 値,尿酸値,γGTP 値を取り上げ,これらの因子と HbA1c 値との間の相関係数を求めた。次に HbA1c 値との間で有意な相関関係が得られた因子と 2 市を区別する変数を独立変数に,HbA1c 値の指導区分で要指導以上かそうでないかを従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。地域の違いが各因子の HbA1c 値への関連に影響を与えるか交互作用項を追加して分析した。
結果 1. 男性において,両地域に共通して年齢,BMI, TC 値,γGTP 値について HbA1c 値との間で有意な正の関連が,尿酸値に有意な負の関連が認められた。
 2. 女性において交互作用項を含むモデルでロジスティック回帰分析を行った場合,両地域に共通して年齢,BMI, SBP 値,TC 値,TG 値,GPT 値,γGTP 値について HbA1c 値との間に有意な正の関連を,GOT 値について有意な負の関連を認めた。TC 値については交互作用項が有意なことから HbA1c 値との関連の程度が地域集団の違いにより異なると考えられた。
結論 男性で HbA1c 値に対する正の関連因子として認められた TC 値,女性での BMI, TC 値についてはこれまでの本邦の報告と一致し,女性に認められた TG 値は欧米での報告と一致していた。男性での γGTP 値,女性での GPT 値,γGTP 値については HbA1c 値に対する正の関連因子として今回の検討で初めて認められた。HbA1c 値が従来から言われてきた肥満だけでなく脂質代謝,肝機能検査値,血圧の複数因子との関連が認められたことから,地域住民の HbA1c 値と動脈硬化危険因子との関連を検討することは住民の複数危険因子の評価に有用と考えられた。

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© 2002 日本公衆衛生学会
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