日本野生動物医学会誌
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特集論文
ゾウ類の発情周期に関する解剖学的,生理学的,行動学的および病理学的特徴
Thomas B HILDEBRANDTImke LUEDERSRobert HERMESFrank GOERITZJoseph SARAGUSTY
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2012 年 17 巻 3 号 p. 97-109

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抄録

 近年,ゾウは,飼育下での低い繁殖成功率や,野生からの新たな個体導入の停止により生息数が減少している。一方,ホルモン測定や超音波検査の発展,アフリカでの生息数調整などから得られた研究成果は,現在のゾウの生殖周期に関する知識の発展に貢献してきた。ゾウの繁殖特性は他の哺乳類と明らかに異なっており,泌尿生殖器の解剖学的構造,発情周期の長さや構成,副黄体の形成,生殖ホルモンの分泌パターンなどが特徴的である。雌ゾウの発情周期は12~18週であり,現在までに知られている周年繁殖動物の中で最長である。プロゲステロンが排卵後1~3日で上昇して黄体期が始まり,6~12週続く。その後4~6週間ある卵胞期の終わりには,正確に時間差のある2回のLHサージが起こる。一般的に,1回目のLHサージは排卵を誘起せず,その19~21日後の2回目のLHサージで排卵が誘起され,通常,1個の卵胞が排卵する。しかし,排卵部位での黄体形成に加えて,卵巣には複数の黄体が観察される。他の多くの動物種と違い,黄体組織から分泌される主なプロゲスタジェンはプロゲステロンではなく,プロゲステロンから5α減少した代謝物である。今回,アジアゾウ,アフリカゾウで現在分かっているユニークな発情周期について,発情行動,生殖関連ホルモン,生殖器官の超音波と形態学的構造,病理学的面を,ホルモン処置の可能性も含めて説明した。

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© 2012 日本野生動物医学会
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